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しおり市長の市政報告書 vol.36最終回
伊達は押されっぱなしだったが、そこで「新政組」会派の議員が伊達にメモを渡した。そのメモを見て伊達の目に力が戻った。すぐさま伊達は新聞の切り抜きを取りだし、再質問に立った。 「市長は問題ないと言い立てますが、この新聞では、問題を指摘していますよ」 伊達が余裕を取り戻しつつ示した新聞は、松永が系列新聞に書かせた記事だった。 どうやらあのメモは、今日もマスコミ席に陣取っている松永からの指示で回されたメモのようだ。マスコミの示唆で批判質問をする議員とは、世も末だ。
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しおり市長の市政報告書 vol.35(終章)
第四章 九月定例会 9月2日午後2時41分 「こんな施設は認められませんよ、市長!」 天童市議会の議場に、伊達よしき議員の声が響き渡った。 9月とはいえ、村山盆地の残暑は厳しい。相変わらず市役所職員は電気代を節約して空調の温度を下げてくれないため、議場は蒸し暑かった。 その中で、伊達はますます過熱していく。反対に、聴衆の雰囲気は冷却していく。 伊達は、8月の「COIZOO天童」の落成を受け、一月後の九月定例会でこれを批判する一般質問を行っていた。 昨年の12月、市長をおとしめる一般質問をしたときには、伊達を応援する傍聴者がつめかけていた。しかし今日の傍聴者は極端に少ない。伊達は、親水公園の建設に反対の質問をすると支援者たちに呼びかけていたらしいが、それに反応した市民がほとんどいなかったということだ。 伊達はそれにあせりを感じているのだろう。先ほどから過激な言葉を繰り返しているが、内容がない叫びは空転するばかりだった。
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しおり市長の市政報告書 vol.34
8月5日午前10時29分 親水公園落成を祝い、今後の安全を祈願するご祈祷が終わった。 普通はここで市長のあいさつがあるが、今日はすぐにテープカットを行うようだ。参加者たちが、ご祈祷の行われていたテントの中から次々と出てくる。 メイン施設を巧妙に隠す紅白幕の前に、テープカットの準備がなされている。参加者たちが集まり、その後方から大勢のマスコミが、開幕の瞬間をねらった。 市長、議長などの主催者・来賓が、紅白のテープの前に並んだ。白い手袋と金色のハサミが配られ、準備が完了する。天童市の楽隊もスタンバイし(天童市には有志の音楽好きで構成された楽隊がある)、歌を披露するかわいい幼稚園児たちも配置についた。
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しおり市長の市政報告書 vol.33
8月5日午前9時37分 猛暑のその日、天留湖周辺の親水公園の落成式だった。 深緑映える湖畔に、鮮やかな紅白幕が張られている。平地は非常に暑かったが、標高が高いこの場所は清々しかった。湖の上を渡ってくる風が、肌に心地いい。 落成式への参加者を乗せた車が次々と登ってくる。 市長はじめ行政関係者と市議会議員の全員。田麦野地区の代表者や公園の土地を提供した地権者たち。農協や商工会議所、温泉組合などの各種団体の長。公民館長や学校の校長。県庁からの来賓。そして、地元周辺の幼稚園児たちも呼ばれて、お祝いの歌を披露することになっていた。
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しおり市長の市政報告書 vol.32
1月29日午前11時22分 私は、舞鶴山の頂上にむかっていた。 春の人間将棋以来、久しぶりに山頂へと登る。冬まっただ中の舞鶴山は真っ白で、静謐に包まれていた。 除雪はされているものの、雪深いこの時期、なかなか山頂まで登る人はいない。麓にある愛宕沼周辺は、散歩している人がまばらにいたが、曲がりくねる登山道をぼろ車で登るうち、人の気配はなくなった。しかし山頂に着くと、人気のなさがかえって雪景色の精妙さを際立たせるようだった。 あのあと、市長室に駆け込むと、市長は不在だった。
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しおり市長の市政報告書 vol.31
1月29日午前10時47分 そのとき以来、私は「代案なき批判はしない」の言葉を支えにしてきた。 はじめての選挙戦に四苦八苦し、かろうじて当選してからは、慣れない議員の仕事に四苦八苦しながらも、このときの決意とケンイチ代議士の言葉だけは忘れない。 代案を示すということは、「自分がその立場だったらどうするか?」と、常に考えることだ。実情を勉強し、発想を転換させ、予算を想定し、結果を予測して、「私があなたの立場ならこうしますが、どうでしょう?」と言うのが、「代案なき批判をしない」ということだ。 しかし、ああ…。どうでしょう?ケンイチ代議士?
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